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生存戦略

ひなたんと山岸と佐渡

ポスト

一番初めに会ったのは、Kさん。

私は音楽が好きで、趣味の合う人と話したいとおもっていたところにKさんがメッセージを送ってきた。

最近デビューしたばかりのあまり知られていないバンドの話で盛り上がって、よくわからないけど、翌日に会うことになった。そうそう、その前にいったライブ会場がKさんの家の近くで、彼もそのライブに行ったらしかった。

 

夜中にだらだらとラインをしていたらいきなり、「今日は雨だからいっしょに部屋で映画でもみますか」といってきた。

ふつうの女の子だったらいきなり家はちょっと・・・ってなるんだろうけど、わたしも雨の日は外を歩くより家で映画をみていたいタイプだから賛成した。こわいという感情はない。

 

一応、事前にFacebookで検索して、外見が嫌いではないことを確認しておいた。

ちなみに出会い系アプリを使ってる人ってだいたいLINEの登録名が下の名前だけだったり、へんな文字列だったりするからすぐわかる。わたしはLINEを教えてと言われたときには必ずIDを聞くことにしていて、そこからたくさんのヒントを得ている。

TwitterとおなじIDにしてるひとも多いみたい。Kさんの場合はLINEの登録名は下だけだったけど名字をIDにしてたから、Facebookが簡単にわかった。

 

駅に着くまでの間、ほくほくとした気持ちでラインをしていた。

話があうし、少し電話をしたときに方言が心地よかった。

「もうすぐ着くけどわかるかなー」

「わかるとおもうよ、俺でかいから」

「背高いの?」

「190センチある」

「自動販売機よりも大きいね」

そんなくだらないことをいってたら、待ち合わせの場所にはひょろっとしたイケメンが立っていた。

 

「こんにちは」

「めっちゃ他人行儀!笑」

「はじめまして、山岸です」

 

なんてやりとりをしながら彼の家まで歩いた。

Tシャツを着ていたからまだ夏だったのかもしれない。

季節はあまり覚えていないけど、その日は確実に雨が降っていた。

 

なんだかふつう。

はじめて会った人と並んで歩くのも、その人の家に行こうとしていることも、おもったよりふつうのことだった。

知らない女を簡単に家に上げていいのかと心配したけど、あんまり気にしていなさそうだった。

 

「はじまりのうた」をみた。

途中でりんごを剥いてくれたり、コーヒーを淹れてくれたりして、家デートってこんなかんじかと考えていたら、あまり映画に集中できなかった。

 

それからそんなかんじになって、名残惜しかったけれど夕方のバイトに間に合うように家を出た。

別れ際に「これからよろしくね」と言われたから、どういうことだろうと思いながらも、「うん、こちらこそ」と言っておいた。

 

それから彼は頻繁に連絡してくるようになって、私は何度か家にいった。

社会人のKさんはベンチャー企業で働いてて、帰りが遅くなるから先に家に入っててとポストの開け方を丁寧に教えてくれた。知らない女にポストの開け方を教えていいのかと心配したけれど、あんまり気にしてなさそうだった。

 

知らない人の家に一人でいるのは心細い。

お風呂に入っていたら、知らない女の人が置いていったメイク落としがふつうに置いてあった。私はそれを使うのも申し訳ないなとおもって、自分で持ってきたお泊りセットのメイク落としを使う。

私はきっと彼女じゃないけど、彼女じゃない私にも、彼女かもしれないその人にも失礼だ。

 

Kさんが帰ってきて、いっしょに寝た。

のんきに今度の連休に山梨に行こうと言っている彼の声を聞きながら

きっともう会うことはないんだろうなと思って悲しくなった。

私は彼の話す方言が好きだった。

 

翌朝、私が学校に行くより先に彼は仕事に出かけた。

それから何度かやり取りをして、返信が来なくなった。

「遊ばれて捨てられた女」という自意識が芽生えたら、とたんに悲しくなった。

 

私は今でも、彼の家のポストの開け方を覚えている。

右回りに7、左回りに3、そしてまた右回りに7。

いつでも嫌がらせが出来るという安心感があって、結局なにもしていない。

 

 

山岸