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生存戦略

ひなたんと山岸と佐渡

白いエプロン

私は映画館が好きだ。

映画を見ることも好きだけど、そこで食べるキャラメルポップコーンがなによりも好きだ。

見たい映画がなくても、なんとなく暇な時間があれば映画館にいってしまう。

 

そんなときに思い出すのが、Dくんだ。

 

Dくんには、私のほうからメッセージを送った。

なんとなく、さわやかそうな雰囲気だったし、めずらしく同い年だったから。

プロフィール画面には「ハプニングバーにいきたい」と書いてあって、「わたしも興味あります」といったのがはじまりだった。

 

ハプニングバーというのは、大人の遊び場のことである。

なんでもありのアンダーグラウンドな世界。

私は体験したことがないけれど、去年知り合った女の子がハプニングバーは最高だよという話をしてくれたのでなんとなく興味があった。

 

その日は深夜だったこともあって、あまり深く考えずにメッセージを送った。

すぐに返信がきて、じゃあ今度行ってみようということになった。

はじめから性的なことを目的とした出会いというのははじめてだったし、途中で怖気づいてしまったから「入場するのは付き合うけど、すぐに帰っちゃうかも」といったら、「俺も正直びびってる。笑 そしたらいっしょに帰るよ」といってくれた。ハプニングバーの入場料は男性だけだととても高いのだ。カップルだと男性だけの半分くらいで入場することができる。

 

数日後、渋谷で待ち合わせをした。

それまでメッセージをやり取りしていたけれど、顔写真を交換するとか電話をするとかはなかったので、とんでもないブサイクが来たらどうしようかと考えていた。だけどメッセージの言葉遣いが好きだったのでまあいいかという気持ちになって、そのまま会うことにした。

 

近くについたら電話がなった。

優しい雰囲気の声で「今どこ居る?」と言われ、電話をつなげたままちゃんと会うことが出来た。彼もふつうの大学生だった。

 

「ごめん、今からダンボールと芝生を買わなきゃ」

「そうなんだ。じゃああっち行こうか」

 

突然ゼミの先生からおつかいを頼まれた私は、出会ってひとこと目に東急ハンズに行きたいといった。まったく緊張感のない、はじめましての瞬間だった。

彼はそれをバカにするでもなく、ちょっと安心した様子でいっしょに歩いてくれた。

 

結局、そのおつかいは必要なくなって、HUBで飲むことにした。

「やっぱり、ハプニングバーに行くのはこわいね」

「わたしたちにはまだ早いね」

といいながら、お酒を飲んでふつうの大学生の話をした。

 

彼は、理系の大学に通う大学4年生で、都内に一人暮らしをしている。

実家から見える富士山がとてもきれいだから、今度見にきなよといってくれた。

研究室では量子力学?とかをやっているとかで、半分以上何を言ってるかわからなかった。

 

その日は、お互いに「変な人じゃなくてよかった」といっていた。

帰り際、「今度は映画とか見に行きたいね」とさそわれてなんだかとても嬉しかった。

性的な目的で出会ったはずの男女が、純粋な恋愛のはじまりみたいで、くすぐったい。

 

 

それから2回、デートをした。

1回目は私のおすすめのハンバーグランチを食べに行って、それからおいしい紅茶のお店に入った。

「最近白いエプロンを買ったんだよ。料理をするたびに汚れていったらいいかなって思って」

「一人で花屋にいって一輪の花をかって玄関に飾るのが好き」

とか、なんでもない日常の話なのに、とても好きだと思った。

友だちに選んでもらったコートを着ていったら、「素敵なコートだね」といってくれた。

うれしかったから柄にもなくくるっと一周まわってしまった。

 

2回目は、映画を見に行った。

海賊とよばれた男」をみた。キャラメルポップコーンと塩のポップコーンをハーフ&ハーフにして、2人で食べた。

長い映画だけれど、場面の切り替えが多くて、つまらなくはないんだけど、純粋に楽しめないようなそんな映画だった。

エンドロールが流れて、人がまばらになってきたところでDくんは「なんかちょっと疲れたね」といった。

 

私は彼のこういうところがとても好きだと思った。

どうだった?と相手を伺うようでもなく、熱く語りはじめるでもなく、ひとことの感想が私と同じだったから。

 

それから彼とは会っていない。

お互いに卒論がおわったらまた映画を見に行こうとは言っていたけれど、

わたしはなんとなく連絡ができないでいる。

 

あの日予告編が流れて「見に行きたいね」といった映画の公開が、もうすぐはじまってしまう。

 

 

山岸