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生存戦略

ひなたんと山岸と佐渡

壊れた時計

私の恋愛感覚はおそらく壊れているのだと思う。

時計で例えるならばくるくる回ってしまうものではなくて、一秒を刻むのに十秒かかるような壊れ方だ。ときどき、じれったくなってきて一秒で一時間くらい進んでしまうこともある。とにかくきっと、壊れているのだ。

 

さっきまでお風呂に浸かりながら好きな男の子と電話をしていた。

何度かデートをしているうちに、いろいろあったんだけれども(この話はまた今度するとして)、私のことを好きになってくれて、付き合いたいといってくれた。けれど、私には付き合うということがよくわからない。

 

両想いと付き合うって何が違うの?

好きと好きだったら付き合うのがふつうなの?

付き合うって何をすることを意味するの?

なんで付き合わなきゃいけないの?

 

これでも一応、高校生の時までは「付き合う」ということを経験していたし、まわりの友人たちが「付き合ってる」のを見てきたからなんとなくは分かるんだけど、もっと私を納得させてくれる答えがほしかった。

 

手をつなぐことも、キスをすることも、それ以上のことをするとしてもべつに付き合わなくたっていいじゃないかと思う。夜寝る前に電話したって、日曜日に早起きをして遊びに行ったって、そのまま月曜日までいっしょに居たっていい。お互いの時間を出し合って過ごす時間を増やすことが、付き合うということなのだろうか。

だけど全然会えない遠距離のカップルだっているし、もうわけがわからない。

付き合うというのは相手の行動に干渉する権利を得るということなのか?

だとしたら、私は誰とも付き合いたくないのかもしれない。

 

付き合うということがよくわからないまま4年の月日が流れてしまった。

友人にとりあえずだれかと付き合ってみればわかるよといわれて、出会い系で知り合ったTさんと付き合うことにした。彼は私より5歳年上で、私の目が好きだと言っていた。

 

はじめて会った日はカフェでコーヒーを飲んで、もつ焼きを食べて、そのあと彼の家に行った。テレビを見ながら笑っていたら、ふとキスをされて、そのあとに「付き合おっか」といってきたのだ。ふつうならそこでときめいたり、あるいは怒ったりするのかもしれないけれど、「セックスをしたいがために付き合うことを提案してくる律儀な人なんだな」と思った。

しかし、「わざわざ付き合わなくても...」なんて言えない。私はちょうどだれかと付き合うべきだったし、その提案に乗ることにした。

 

Tさんとは、結局付き合うということがよくわからないまま終わってしまった。

ふだんはほとんど連絡をとらなかったけれど、彼の仕事の休み日は「今から会いたい」と連絡をしてきて、私は「もう家を出れない」と断っていた。

私は彼の休みがいつかも知らないし、休みの日にいっしょにしたいこともなかった。全然好きじゃなかったんだと思う。会いたいと言われたときに焼肉の写真を送ったら、「もう知らん」と言われてそこから連絡がこなくなった。

 だからと言ってこちらから連絡をしたいとも思わない。連絡をしたところで話すこともやりたいこともないし、本当に終わってしまったのだ。なにも始まってなかったのかもしれない。

 

Tさんとの一件があってから、ますます付き合うということがよくわからなくなってしまった。私はだれかと真剣に向き合いたいと思っているけれど、同時に向き合うのがこわくて仕方がない。

 

曖昧な言葉を使って気持ちにずれがうまれるのがどうしてもいやなのだ。

好き、なんてことばは最悪だ。

電話をしていた彼のことは、好きだけれども、嫌いでもある。

私がデートをしたいし電話をしたいし触りたいし好きだと言ってほしい程度には好きだと伝えたら「じゃあ付き合えばいいじゃん」と言われたので、それは違うと答えた。だって付き合わなくたって、全部できるじゃん。付き合わなきゃ出来ないことなんて、ないじゃん。

 

私にはもう1人、好きな人がいる。

好きだということばは曖昧だけれども、一緒にここに行きたいなと 思うことがよくある程度には好きなんだと思う。Tさんには生まれなかった気持ちだから、これを好きということなのではないかと思っているところだ。

彼とはもう4ヶ月くらい毎日連絡を取っていて、一緒に映画を見たり音楽を聴いたり、お酒を飲んだりした。

会うたびにいつも不思議な事件が起きて、笑いが止まらない。映画を見てすぐに泣くところが、かわいいと思う。

 

けれど、手を繋ぎたいともキスをしたいとも思わないし、向こうもきっとそうだろう。用事がないときに電話をかけることもない。

私たちはたぶん、友達なのだ。だけど私はまだ見ぬ男の顔になった彼を見てみたい。見たら正しく好きになるかもしれないと期待しているのだ。

 

電話の彼が隣にいると、自然に手をつないだり、なんにもない日に電話をかけたりしたくなる。これが好きということなのだろうか。

 

私にはどちらも好きな気がするし、どちらも好きじゃない気もする。どちらかを特別にしたら、どちらかへの気持ちをゼロにしないといけないならば、なにもしたくない。

 

付き合うか付き合わないかを100と0にするのは乱暴だと思う。私の気持ちはきっと70くらいで、100を目指しているのだ。電話の彼に、そう伝えると、「つまり好きじゃないってことでしょ?」と言われる。そうなのだろうか。「それならはっきり振ってくれた方がマシだ」と言われるけれど、それがお互いにとっていいことなんだろうか。

もし振るとして、70まで溜まってしまった気持ちは、どこに捨てたらいいのかわからない。100になるまで待ってよっていうと 残酷だと言われる。誰かを傷つけていることに悲しくなる。

 

お互いに好きじゃないのに付き合ったり、好きなのに付き合わなかったり、好きなのかわからなかったり、むずかしい。誰かの特別になりたいけれど、誰も特別にしたくない。

 

 

時計は今も不器用に動き続けている。今が何時かなんて、ぜったいに聞かないでほしい。

 

 

山岸